フィアット500、フォルクスワーゲンup!、スマート フォーフォー。街で見かけると、
可愛くてつい目で追ってしまう3台です。
縁あって、この3車種を短い期間に立て続けに、
それぞれ1,000km以上運転する機会がありました。ほとんどが高速道路です。
そのとき感じたことを、先に書きます。
500は「最高速度はまずまず伸びてくれるのに、加速のトルクがかなり細い」車でした。
up!も、変速のたびに頭が前後に振られる。
正直に言って、2台とも「厄介」でした。
一方でスマートだけは、シフトが普通のATのようで、力が強いと感じました。
ところが、この記事を書くために公表スペックを並べ直して、僕は自分の間違いに気づきました。
トルクが細いと感じた500は、3台でいちばん太いトルクを持っていました。
力が強いと感じたスマートは、3台でいちばん非力で、いちばん重い車でした。
違ったのは、エンジンではありません。クラッチが1枚か、2枚か。
それだけだったのです。
カタログの数字が同じでも、乗り味はまるで違う。
だから、買う前に確かめてほしい。この記事は、そのための記録です。
まずはこの1台から。※写真はプライバシー保護のため加工しています
縁あって、この3車種に立て続けに1,000km以上ずつ乗った

冒頭に書いたとおり、この3車種にはそれぞれ1,000km以上乗りました。
経緯については、これ以上詳しくは書きません。
そのかわり、この記事がどこまでを語れる記事なのか、最初にはっきりさせておきます。
読んでいただく前に、射程を開示しておくべきだと思うからです。
- 走行の大半は高速道路です。長い距離を、一定のペースで走り続ける使い方でした。
- 街乗りや渋滞は、僕の一次体験ではありません。だから、信号待ちの多い道でどうだったか、渋滞にはまったときにどうだったかは書きません。書けないからです。
- フィアット500とup!の実測燃費も書きません。記録を残しておらず、記憶が曖昧だからです。曖昧な数字を、それらしく書くことはしません。
- 整備状態、タイヤの銘柄、装着されていた個別の装備についても、確認できていないことは書きません。
だからこの記事は、3台のすべてを語る記事ではありません。でも、カタログを読むだけでは絶対に分からないことは書けます。
それは、「同じような数字の車が、なぜここまで違う乗り味になるのか」という一点です。僕はその答えを、乗っている最中にはまったく理解していませんでした。理解したのは、この記事を書くために数字を並べ直した、ずっとあとのことです。
【主観】500とup!は「厄介」だった。smartだけが快適だった
まず、僕がそのとき何を感じていたかを、そのまま書きます。あとで全部ひっくり返るのですが、順番に読んでいただきたいので、いったん当時の感想のまま置いておきます。
500は2台に乗った。装備は違ったが、中身は同じだった


フィアット500については、内外装の異なる2台に乗りました。
ホイールも内装も違う2台でしたが、エンジンと変速機は同じです。どちらも1.2リッターに、デュアロジックと呼ばれる変速機の組み合わせでした。そして、走らせた感触もまったく同じでした。
これは、僕にとって重要な確認でした。つまり僕が感じた「厄介さ」は、その1台の個体差ではなかったということです。
1台だけなら、「たまたま調子の悪い個体に当たったのでは」「整備が行き届いていなかっただけでは」という説明がつきます。実際、僕自身も最初はそう思いかけました。でも、別の1台でまったく同じ感触が再現された時点で、その説明は成り立たなくなりました。これは個体の問題ではなく、この組み合わせの性格なのだと、そこで納得しています。
同じ1.2リッターのデュアロジックです。違うのはホイールだけ。※写真はプライバシー保護のため加工しています
ひとつだけ、正直に書いておきます。赤いほうが、少し速い気がしていました。でも2台は、エンジンも変速機も同じです。ホイールが違うので、タイヤのサイズや銘柄の差かもしれません。個体差かもしれません。あるいは、単なる思い込みかもしれません。理由は分かりませんでした。
この記事は、そういう記事です。僕の体感は、smartでも、500でも、外れていました。だから、この「赤いほうが速い気がした」という感想も、事実として書くつもりはありません。そう感じた、というだけの話です。
500で起きたこと:「最高速は伸びるのに、加速のトルクが細い」
当時感じたことを、そのまま書きます。
最高速度自体はまずまず伸びてくれるけど、加速時のトルクがかなり細かった。
高速道路で、合流や加速にけっこう苦労しました。前に車がいて、少し速度を上げたい。そういう場面でアクセルを踏み込むのですが、思ったように前に出てくれません。力不足では? と、正直なところ思いました。
感覚としていちばん引っかかったのは、加速している最中に、駆動力が抜ける瞬間があることです。踏んでいるのに、一瞬だけ、押し出す力がなくなる。そのたびに頭が前後に振られます。1回や2回ではありません。速度を上げていく過程で、何度も起こります。同乗者がいたら、たぶん気にしただろうと思います。
もうひとつ、停止状態からの動き出しにも違和感がありました。ブレーキを離しても、じわりと前に出ていく感じがない。いわゆるクリープがないのです。国産車から乗り換えると、まずここで戸惑うと思います。
この2つが同時に起きている一方で、速度が乗ってしまえば、そこからの伸びは悪くありませんでした。「伸びるのに、細い」。自分でも矛盾していると思いながら、当時はそれ以上考えませんでした。単に非力な車なのだろう、と片付けていたのです。
この感触は、僕だけの特異な感想でもないようです。試乗レポートを扱うnewcars.jpは、フィアット500のこの変速機について「ダイレクト感は良いが、発進・変速がぎこちない」と書いています(newcars.jp)。ダイレクト感が良い、という部分も含めて、僕が感じたことと重なります。
up!も同じだった

フォルクスワーゲンup!でも、ほぼ同じことが起きました。
別のメーカーの、別の車です。設計思想も、走りの狙いも違うはずです。それなのに、同じ種類の違和感がありました。変速のたびに駆動力が抜け、頭が前後に振られる。動き出しにクリープがない。加速で速度を積み上げていく場面で、一定のリズムで力が途切れる。
正直に言って、こちらも「厄介」でした。500とup!、メーカーも国も違う2台で、なぜ同じ違和感が出るのか。当時の僕には、まったく見当がつきませんでした。
up!のこの変速機(ASG)については、clicccarが「アクセルを急激に踏み込むと変速時にギクシャクする」と書き、さらに「変速時に駆動トルクがカットされる時間が構造的に存在する」と説明しています(clicccar)。同じ記事は、ASGがフォルクスワーゲンのDSGとは別物で、単板クラッチ式であることにも触れています。
「構造的に存在する」。この言葉に僕がたどり着くのは、ずっとあとになってからです。
これは僕だけの感想ではありません
ここからは、僕自身の体験ではなく、僕の直前に運転された方々から聞いた話です。
この独特のミッションについて、「こんなはずじゃなかった」という言葉を、
僕は5人の方から聞きました。全員、買ったあとに気づいた人たちです。
ここで、はっきり書いておきたいことがあります。
この3台を選ぶ人は、機構の仕様表を読み込んでから買うタイプの人ばかりではありません。
この車たちは、そもそもそういう選ばれ方をする車ではないからです。
デザインで選ばれ、佇まいで選ばれる。それは、まったく正しい選び方です。
だからこそ、カタログの「5AT」「6AT」という表記が、決定的に効いてしまう。
ATと書いてあればATだと思うのは、当たり前のことです。
責められるべきは、買った人ではありません。
——ここまでが伝聞です。ここから先は、また僕自身の話に戻ります。
一方、smartだけは明らかに快適だった

3台目のスマート フォーフォー(1000ccのprime)は、前の2台とはまるで違いました。
シフトが普通の6ATのようで、走り出しに力があると感じました。加速の途中で駆動力が抜ける、あの感覚がありません。踏んだぶんだけ、そのまま押し出されていく。上記2台よりずっと快適だ、というのが当時の率直な印象でした。
だから僕は、こう理解していました。「スマートは、エンジンが強いのだろう」と。3台の中でいちばん力がある車に違いない、と思っていたのです。
この理解が、まるごと間違っていました。
【反転】数字を並べたら、僕の体感はひとつも合っていなかった
この記事を書くにあたって、3車種の公表スペックを並べ直しました。そして、自分が完全に勘違いしていたことに気づきました。
紙の上では、この1台がいちばん軽くて、いちばん強い。※写真はプライバシー保護のため加工しています
まず、表を見てください。最下段には、当時の「僕の体感」も並べてあります。
| 項目 | FIAT 500 1.2![]() | VW up! high up!![]() | Smart forFour prime![]() |
|---|---|---|---|
| 排気量 | 1,240cc | 999cc | 999cc |
| 最高出力 | 69PS/5,500rpm | 75PS/6,200rpm ★最強 | 71PS/6,000rpm |
| 最大トルク | 102N·m/3,000rpm ★最大 | 95N·m/3,000〜4,300rpm | 91N·m/2,850rpm ★最少かつ最も低回転 |
| 車両重量 | 約980〜990kg | 920kg ★最軽量 | 1,040kg ★最重量 |
| パワーウェイトレシオ | 約14.2kg/PS | 約12.3kg/PS ★最良 | 約14.7kg/PS ★最下位 |
| 変速機(実際の機構) | 5速シングルクラッチAMT(デュアロジック) | 5速シングルクラッチAMT(ASG) | 6速デュアルクラッチDCT(ツイナミック) |
| カタログ表記 | 5AT | 5AT | 6AT |
| 駆動方式 | FF | FF | RR |
| 燃料 | ハイオク | ハイオク | ハイオク |
| 僕の体感 | トルクが細い/厄介 | 厄介 | 力が強い/快適 |
※注1:フィアット500は内外装の異なる2台に乗りましたが、エンジンも変速機も同一のため、表では1行にまとめています。
※注2:スペックは各車の公表値をもとにした中古車カタログサイト掲載値(2026年7月時点)です。年式・グレードによって異なります。
「トルクが細い」と感じた500が、3車種でいちばん太いトルクを持っていました。
「力が強い」と感じたsmartが、3車種でいちばん非力で、いちばん重い車でした。
そして「厄介」と切り捨てたup!が、紙の上ではいちばん速い車でした。
3つとも、逆です。僕の体感は、ひとつも数字と合っていませんでした。
特にこたえたのが、500です。僕は「加速のトルクが細い」と感じていました。ところが3車種を並べてみると、500は最大トルクがいちばん太い。102N·m。smartより11N·mも多い。
しかも僕は同時に、「最高速度自体はまずまず伸びてくれる」とも感じていました。
——この2つは、矛盾しません。むしろ、両方が同時に起きる理由が、たったひとつだけあります。
それを書く前に、もうひとつ認めておかなければならないことがあります。
僕は、自分の感覚を疑わずにここまで来ていました。1,000km以上ずつ乗って、それなりに分かったつもりでいた。でも、分かっていたのは「どう感じたか」だけで、「なぜそう感じたか」ではありませんでした。赤い500が速い気がしていたのも、たぶん同じ種類の思い込みです。数字は、僕が間違っていたと言っています。
では、僕が感じた「力強さ」も「トルクの細さ」も、全部錯覚だったのか?——そうではありませんでした。
【解答】違いはエンジンではなく、「クラッチが1枚か2枚か」だった
答えは、エンジンの側にはありませんでした。エンジンと路面のあいだ、つまり変速機の中にありました。
500とup! = シングルクラッチAMT(中身はMT)

フィアット500の「デュアロジック」と、up!の「ASG」。名前はまったく違いますが、機構としては同系統です。どちらも、MTのギアボックスとクラッチを、機械が自動で操作する仕組みです。
これは僕の推測ではありません。フィアットの公式マガジン「fiat magazine CIAO!」が、はっきりそう書いています。
クラッチペダルもなく見かけは完全に「AT車」なんですが、厳密にいうとシフトとクラッチの操作、つまりMTの操作を機械がこなしてくれる自動MT
メーカーの公式媒体が、自ら「自動MT」と明言しているのです。ATに似た顔をしているけれど、中身はMTである、と。
そう分かってしまえば、僕が感じていたことは全部つながります。
- 変速のたびに、クラッチを切る。MTを運転したことがある方なら、すぐ分かると思います。ギアを変えるには、いったんクラッチを踏まなければならない。踏んでいるあいだ、エンジンと車輪は切り離されています。つまり駆動力が物理的に途切れる。この途切れが、頭が前後に振られる正体でした。
- クリープがないのも、同じ理由です。トルコンATのように流体で常に軽くつながっているわけではなく、MTと同じくクラッチが切れた状態から発進します。ブレーキを離してもじわりと出ていかないのは、当然のことでした。
up!のASGも同じです。フォルクスワーゲンにはDSGという有名な変速機がありますが、ASGはそれとは別物で、単板クラッチ式です。名前が似ているぶん、かえって紛らわしいかもしれません。前掲のclicccarが「変速時に駆動トルクがカットされる時間が構造的に存在する」と書いていたのは、まさにこのことでした。

メーカーも国も違う2台で、同じ違和感が出た理由。それは、同じ種類の機構を積んでいたからです。
「伸びるのに、細い」の答え
ここで、あの矛盾に戻ります。「最高速度はまずまず伸びるのに、加速のトルクがかなり細い」。
一定速度で巡航しているとき、AMTは変速しません。だからクラッチは繋がりっぱなしで、エンジンの力はそのまま路面に届きます。ロスの少ない、素直な伝わり方です。最高速度がまずまず伸びたのは、そのためだと考えられます。高速道路を淡々と流しているぶんには、不満が出にくかったのも、たぶんこれです。
ところが加速中は違います。加速とは、変速を繰り返すことです。2速から3速へ、3速から4速へ。速度を上げていく過程で、何度もギアを変える必要がある。そして変速のたびに、クラッチが切れる。
102N·mというトルクは、確かにそこにあります。3車種でいちばん太い。それは数字が示しているとおりです。でも、それが路面に届き続けてはくれない。届いて、切れて、また届いて、また切れる。加速という、いちばん力が欲しい場面で、断続的になってしまう。
「最高速は伸びるのに、加速のトルクが細い」——僕が感じていたのは、たぶんこれです。トルクが細かったのではなく、トルクが途切れていたのです。
高速道路の合流で苦労したのも、同じ理由だと考えられます。合流は、短い距離で一気に速度を上げなければならない場面です。つまり、いちばん変速が集中する場面でもあります。踏んでいるのに前に出てくれないと感じたのは、力がなかったからではなく、力が連続していなかったからではないか。いまはそう考えています。
smart = デュアルクラッチDCT(ツイナミック)

では、なぜスマートだけが違ったのか。
スマート フォーフォーが積んでいるのは、ツイナミックと呼ばれる6速のデュアルクラッチDCTです。名前のとおり、クラッチが2組あります。
片方のクラッチが現在のギアをつないでいるあいだに、もう片方のクラッチが次のギアを予め掴んで待っている。変速の瞬間は、待っていた側に受け渡すだけです。だから、トルクが途切れません。
91N·mという、3台でいちばん細いトルク。1,040kgという、3台でいちばん重い車体。パワーウェイトレシオも3台で最下位です。紙の上では、いちばん不利な車でした。でもそれが、切れずに届き続ける。僕が「力が強い」と感じていたのは、たぶんこれでした。
もうひとつ、表を見ていて気づいたことがあります。smartの最大トルク発生回転数は2,850rpmで、3車種の中で最も低いのです(500は3,000rpm、up!は3,000〜4,300rpm)。低い回転から出て、しかも途切れない。体感としては、これが一番効きます。日常の速度域で、アクセルを踏んだそのときに、力がそこにある感じ。「普通の6ATのようだ」と思ったのは、そういうことだったのだと思います。
3台でいちばん非力な1台。でも、いちばん快適でした。※写真はプライバシー保護のため加工しています
カタログは、この違いを全部「AT」と書く
ここまで読んでいただいて、たぶん引っかかっている方がいると思います。「そんなに違うなら、カタログを見れば分かるのでは?」と。
分かりません。これが、この記事でいちばん書きたかったことです。
| 車種 | 中古車カタログの表記 | 実際の機構 | 変速時に駆動力が |
|---|---|---|---|
FIAT 500 1.2![]() | 5AT | 5速シングルクラッチAMT(デュアロジック) | 途切れる |
VW up! high up!![]() | 5AT | 5速シングルクラッチAMT(ASG) | 途切れる |
smart forfour prime![]() | 6AT | 6速デュアルクラッチDCT(ツイナミック) | 途切れない |
(参考)国産コンパクト一般![]() | CVT / ○AT | トルコンAT・CVT | 途切れない |
※表記はカーセンサー/カーセンサーエッジ/ネクステージ/GAZOO 各カタログページの「シフト」欄(2026年7月時点)を確認したものです。
「5AT」「5AT」「6AT」。並べてしまえば、同じ仲間に見えます。数字が1つ違うだけの、変速段数の差にしか見えません。
でも実際には、上の2台と下の1台のあいだには、駆動力が途切れるか途切れないかという、決定的な差があります。その差は、この欄には現れません。
誤解のないように書いておきますが、これは表記が間違っているという話ではありません。中古車カタログのシフト欄は、「クラッチペダルの有無」で大きく分ける慣習になっています。その分類でいえば、デュアロジックもASGもクラッチペダルはないので、ATの側に入ります。表記の慣習上、そうなっているだけのことです。
ただ、その慣習の結果として、買う前にいちばん知っておきたかった違いが、見えなくなってしまう。
僕が「普通の6AT」だと思っていたのは、僕の記憶違いというより、そう書いてあったからでした。
先ほど、「こんなはずじゃなかった」と話してくれた5人のことを書きました。その誤解の出どころも、たぶんここです。僕自身がまったく同じ誤解をしていたのだから、それは間違いようがありません。1,000km以上ずつ乗った僕でさえ、記事を書くために調べ直すまで気づかなかったのです。
だから、実用的なことをひとつだけ書いておきます。
中古車情報のシフト欄が「5AT」「6AT」となっていても、中身がATとは限りません。気になる個体を見つけたら、車種名に加えて「デュアロジック」「ASG」「DCT」「ツイナミック」といった機構名で検索し、その車が実際に何を積んでいるのかを必ず確認してください。ここを確認するだけで、「こんなはずじゃなかった」の大半は防げるはずです。
smartはRR(後輪駆動)でもあった

最後に、もうひとつだけ触れておきます。
スマート フォーフォーは、この3台で唯一のRR、
つまりエンジンを後ろに積んで後輪を駆動する構成です。
500もup!もFFですから、ここも違います。
加速するとき、車体は後ろに沈み込みます。荷重が後軸に乗る。
その後軸で駆動する構成も、僕が感じた力強さに効いていた可能性があります。
ただし、これは僕の推測の域を出ません。同じ条件で比べたわけではありませんし、タイヤやサスペンションの仕様差までは確認できていません。断定はしないでおきます。クラッチが1枚か2枚かという話ほど、はっきりした説明はできないからです。
3車種それぞれの「知っておくべきこと」
ここまで、シングルクラッチかデュアルクラッチかという構造の話をしてきました。こう書くと「smartが正解でしょ」と読めてしまうかもしれませんが、そういう話ではありません。
3台とも、それぞれに「知らずに買うと戸惑うところ」があります。僕がいちばん快適だと感じた車にも、あります。そこを書かずに終わらせると、この記事はただの推し車紹介になってしまうので、3車種とも正直に並べます。
FIAT 500 1.2|デュアロジックを「理解して乗る」車

500は、デュアロジックという機構を理解したうえで乗る車だと思います。逆に言えば、日本車のトルコンATと同じ感覚のままアクセルを踏むと、ほぼ確実に戸惑います。
アクセルを一定に踏み続けたまま変速を迎えると、駆動力が抜ける瞬間がそのまま体に届きます。日本車なら「滑らかに繋がってくれる」と信じて任せられる場面で、500は任せきれない。乗り手の側が変速に合わせにいく必要がある、と言い換えてもいいと思います。ただ、その「合わせにいく」が要るということ自体を、買う前に知っているかどうかは大きいはずです。
また、坂道に関しても指摘があります。ヒルホールド機能について、実走行では確実に効かない場合がある、と紹介されています(出典:カーサブスクリプションナビ)。坂道の多い場所に住んでいる方は、試乗時にここを必ず確かめたほうがいいと思います。
VW up! high up!|紙の上でいちばん速い車が、いちばん気を遣う車だった

up!のASGも、構造としては500と同じシングルクラッチのAMTです。そのうえで、up!には坂道について明確な情報があります。
ヒルホールド機能は5度未満の坂では作動せず、状況によってはサイドブレーキの併用が必要になる、と紹介されています(出典:clicccar)。
「5度未満」というのは、体感としては「ゆるい坂」です。立体駐車場のスロープ、コンビニの出入り口、マンションの敷地内。むしろ日常でいちばん頻繁に出会う角度だと言ってもいいと思います。そこで自動では踏ん張ってくれないなら、運転する側が手順として覚えておく必要があります。
75PS、920kg。数字の上では3台でいちばん軽く、いちばんパワーウェイトレシオが良い。それがup!です。それでも僕の実感としては、いちばん気を遣う車でした。紙の上でいちばん速い車が、いちばん気を遣う車でもあった——この記事で言いたいことは、結局ここに集約されている気がします。
smart forfour prime|快適だった車にも、書いておくべきことがある

変速の面では、smartは3台のなかで飛び抜けて扱いやすい。6速DCTのツイナミックは駆動力が途切れないので、日本車から乗り換えても違和感がほとんどありません。でも、smartにも僕が「これは書いておくべきだ」と思ったところがあります。
ひとつは、ガラスルーフです。
開放感は本当に気持ちいいんです。天井いっぱいがガラスで、空がそのまま見える。ここはsmartの大きな魅力だと思います。ただ、付属しているシェードが、想像よりずっと薄い。布というより、薄手の網に近い感覚です。閉めても光は普通に透けてきますし、遮熱という意味ではほとんど期待できません。
結果として、夏の車内は思っていたよりも暑くなります。特に、屋根のない駐車場にしばらく置いたあとが顕著でした。乗り込んだ瞬間の熱のこもり方が、普通の鉄屋根の車とは違います。走り出してエアコンが効いてくれば落ち着きますが、頭の上から日射しが降ってくる感覚は、晴れた日中は消えません。
これは、カタログにもスペック表にも出てこない情報です。もしsmartのガラスルーフ付き個体を検討しているなら、夏の日中に、屋外に停まっていた個体で試乗させてもらうことを強くおすすめします。冬の夕方に試乗して決めると、この点はまず分かりません。
もうひとつは、アイドリングストップからの再始動です。ブレーキペダルから足を離して再始動させるとき、一拍の間があってからエンジンがかかるため、思ったリズムで発進しにくい場面があった——という趣旨の指摘が、webCGの試乗記に書かれています。再始動時の振動についても触れられています(出典:webCG)。
燃費について。記憶に基づく概算ですが、15km/L前後でした。手元に記録が残っているわけではないので、あくまで概算としてお読みください。参考までに、webCGが満タン法で計測したsmart forfour passionの実測値は14.0km/Lと報告されています(出典:webCG)。僕の記憶とメディアの実測が、だいたい同じ方向を向いているのは確かだと思います。
なお、新車当時の価格については229〜237万円という幅で紹介されています。年式や仕様によって変わるので、幅のまま書いておきます。
高速メインで「厄介」と感じた。街乗り中心なら、もっと出るはず
ここは、この記事でいちばん誠実に書かなければいけないところだと思っています。
僕の体験が、どこまで届く話なのか。その射程の話です。
まず構造から言うと、
シングルクラッチAMTの弱点がいちばん出るのは、渋滞や低速のストップ&ゴーです。
クラッチが1枚しかない以上、変速のたびに一度切って、繋ぎ直すしかありません。
低速で発進と停止を繰り返す場面では、この「切って繋ぐ」が短い間隔で何度も発生します。
つまり、変速回数が多い使い方ほど、弱点が顔を出す回数も増える。
理屈としてはとてもシンプルです。
ところが、僕が乗ったのは、ほとんどが高速道路でした。
高速道路は、一度巡航速度に乗ってしまえば変速がほとんど発生しません。
AMTにとっては、最も有利な条件です。
もっと言えば、この機構の欠点がいちばん見えにくい環境で、
僕は1,000km以上を走ったことになります。
その条件で、それでも僕は「厄介だ」と感じました。
だとすれば、街乗り中心のオーナーがもっと強い不満を持つのは、想像に難くありません。
ただしこれは、僕が体験したことではなく、機構から導いた推測です。
そこは切り分けて読んでいただきたいところです。
実際、検索してみると
「フィアット500 後悔」
「デュアロジック やめとけ」
といった記事がいくつも出てきます。中身を読んでいくと、理由はだいたい3つに整理できました。
以下は僕の主張ではなく、公開されている情報の引用として並べます。
①修理・交換費用が高額と公表されている
デュアロジック関連の整備費用について、整備工場や輸入車専門店が実例を公表しています。
ソレノイドバルブ単体の交換で9万円超、
アクチュエーターやコントローラーの交換では部品代だけで15万円以上、
アッセンブリー交換になると20〜30万円といった金額が公表されています
(出典:Dr.輸入車ドットコム/ドッコオートテクニカ/松原オート)。
誤解のないように書いておくと、これは「必ず壊れる」という話ではありません。
壊れた場合にこれくらいかかる、という金額が公表されている、という話です。
そこは混ぜないほうがいいと思っています。
②日本車の感覚のまま乗ると戸惑いやすい
これは、僕自身が実際に感じたことと重なります。
「アクセルを踏めばあとは車がうまくやってくれる」という前提が、この機構には通用しません。
③「オシャレだから」という理由だけで選ぶと後悔しやすい
見た目で選ぶこと自体は、悪いことではないと思います。むしろ車選びの正当な理由です。
ただ、それだけで決めてしまうと、納車後に初めて機構の話に出会うことになる。
ここに関しては順番が逆なんだと思います。
僕の実感と、ネット上の声が指している方向は、たぶん同じです。
じゃあ、買う前にどうやって確かめるのか
正直に書きます。この3車種は、いまのレンタカーの車種指定プランにはまず存在しません。
「借りて試してみましょう」と言えれば話は早いのですが、言えないものは言えません。
なので、現実的に取れる手段を並べます。
ディーラー/輸入車専門店で試乗する
最も確実な方法です。ただし、はっきり書いておきたいことがあります。
30分の試乗では、この機構の本当のところは分かりません。
店の周りを一周して「意外と普通だな」で終わってしまうことが、十分ありえます。
短い時間でも見るべきポイントは、この3つだと思います。
- 停止からの一歩目——ブレーキを離したときにクリープでじわっと動くのか、それとも止まったままなのか
- 2速から3速への変速——アクセルを一定に踏んだまま変速させたとき、どれくらい頭が前後に振られるか
- 坂道で一度止まってから発進できるか——ゆるい坂で構いません。下がらずに出られるかを確かめる
この3つは、店の人に「坂で止まってみたいです」と伝えれば、たいてい付き合ってくれます。
遠慮する場面ではないと思います。
中古車店で、購入予定の「その個体」に試乗する
AMTやDCTは、機構の状態が個体によって差の出やすい部分です。同じ車種・同じ年式でも、クラッチの摩耗具合や制御の学習状態で、変速のクセは変わってきます。
だからこそ、「その車種に乗ってみる」よりも「買う予定のその個体に乗ってみる」ほうが、判断材料としてはずっと有効です。試乗できない個体を、写真と価格だけで決めるのは、この3車種に関してはおすすめしません。
カーシェア/個人間カーシェアを使う
タマ数は多くありませんが、探せば見つかることがあります。この方法の強みは、時間単位で、しかも長めに借りられることです。
数時間あれば、渋滞にはまることもできますし、坂道の多いエリアまで足を伸ばすこともできます。つまり、実生活に近い条件を試せる。ディーラー試乗では絶対に再現できない部分が、ここで確かめられます。
同じ機構を積む別の車で、感覚だけ先に掴む
これは迂回路です。500やup!そのものに乗れなくても、シングルクラッチAMTを積む車、あるいはDCTを積む車には、比較的乗れる機会があります。
そこで確かめるのは、車種の良し悪しではありません。「変速のときに駆動力が途切れるのか、途切れないのか」——その1点だけです。機構が同じなら、クセの方向も似ています。途切れる感覚を先に体で覚えてしまえば、「自分はこれが許容できるタイプか」の答えはかなり出ます。
どの方法にも、得意なことと限界があります。表にまとめました。
| 方法 | 乗れる時間 | 現実度 | 分かること |
|---|---|---|---|
| ディーラー/専門店の試乗 | 15〜30分 | ◎ | 一歩目・変速の癖。ただし30分では判断しきれない |
| 中古車店で購入予定の個体に試乗 | 15〜30分 | ○ | その個体の状態。機構の個体差が出やすいので有効 |
| カーシェア/個人間カーシェア | 数時間〜1日 | △(タマ数少) | 渋滞・坂道など実生活に近い条件 |
| 同じ機構の別車種に乗る | 自由 | ◎ | 「途切れる/途切れない」の感覚そのもの |
| レンタカー車種指定 | — | × | この3車種は現状ほぼ設定なし |
最下段に「×」を書くのは、正直あまり気持ちのいいことではありません。それでも書いておきます。できないことをできるように見せても、読んだ方の役には立たないからです。
数字では見えないものが、確実にあります。※写真はプライバシー保護のため加工しています
そもそもこの3台に、所有という形で向き合うべきなのか。それとも、必要なときだけ借りるほうが自分の生活に合っているのか。そこから考えたい方は、車は買うべきか、借りるべきか|判断軸の整理もあわせて読んでみてください。
「フィアット500を買って後悔している」——もう手元にある人へ
ここまで読んで、「自分はもう買ってしまった」という方もいると思います。
ここからは、その方に向けて書きます。
先に言っておくと、この3車種は悪い車ではありません。
合う人には、たぶん一生手放したくない車です。
この機構のクセも含めて好きだ、という人がいるのは、僕にもよく分かります。
ただ、合わなかったなら、手放すのも選択肢のひとつです。
無理に乗り続けることだけが正解ではありません。
毎日ハンドルを握るたびに気を遣う車と、これから何年も付き合っていくのは、
けっこうしんどいことです。
それを「自分の慣れが足りないだけだ」と抱え込む必要は、ないと思います。
輸入コンパクトは、相場が想像と違うことがよくあります。
思ったより値が付いていることも、逆のこともあります。
まずは今いくらなのかを知るところからでいいと思います。
金額が分からないままだと、乗り続けるか手放すかの比較自体ができません。
入力は無料です。売る・売らないは、金額を見てから決めれば大丈夫です。
査定の仕組みや進め方をもう少し知りたい方は、車の査定について詳しくもどうぞ。
まとめ:カタログの数字が同じでも、乗り味はまるで違う
最後に、この記事の骨格をもう一度だけ。
- 主観:500はトルクが細く感じ、smartは力強く感じ、up!は厄介だと感じた
- 反転:ところが数字では、500が最大トルク(102N·m)、smartが最も非力(71PS)で最重量(1,040kg)、up!が最速(75PS・920kg)だった
- 解答:違いはエンジンではなく、クラッチが1枚か2枚か。500とup!はシングルクラッチAMTで駆動力が途切れ、smartはDCTで途切れない
カタログの数字が同じでも、乗り味はまるで違う。だから、買う前に確かめてほしい。
この記事で言いたいのは、それだけです。
運営者としての言葉も、最後に置いておきます。
「可愛い見た目だけで選ぶと、試乗もせずに買ってはダメな車たち」——これは3台への悪口ではありません。理解して選べば、他では代えの利かない車です。
理解せずに選ぶと、お互いに不幸になる。それだけの話です。
否定しているのは車ではなく、買い方のほうです。
自分にとって所有が正解なのかどうかから整理したい方は、
車は買うべきか、借りるべきか|判断軸の整理をどうぞ。
※本記事のスペックは各車の公表値をもとにした中古車カタログサイト掲載値です。
年式・グレードにより異なります。最新の情報は必ず公式サイト・販売店でご確認ください。
よくある質問
Q1.「フィアット500 スポーツ」と「ポップ」は何が違うのですか?
グレード名だけで判断すると、いちばん誤解が生まれやすいところです。「スポーツ」という名前は同じでも、設定された年式によって中身がまったく違います。
1.4 16V スポーツ![]() | 1.2 スポーツ![]() | |
|---|---|---|
| 設定期間 | 2008年11月〜2010年7月 | 2010年8月〜2012年10月 |
| 出力/トルク | 100PS/6,000rpm・131N·m/4,250rpm | 69PS/5,500rpm・102N·m/3,000rpm |
| 変速機 | デュアロジック(パドルシフト付) | 5速MT |
| 車両重量 | 1,020kg | 990kg |
| タイヤ | 185/55R15 | 185/55R15 |
| 新車時価格 | 243万円 | 208万円 |
参考までに、1.2 ポップのタイヤは175/65R14です。(出典:カーセンサーEDGE/カーセンサー/webCG)
同じ「スポーツ」でも、年式によって出力も変速機もまるで違います。片方は100PSのデュアロジック、もう片方は69PSの5速MT。中古車を探すときは、グレード名だけで判断せず、必ず出力と変速機を確認してください。
Q2. デュアロジックやASGは「壊れやすい」のですか?
僕は故障率のデータを持っていないので、「壊れやすい」とも「壊れにくい」とも書けません。
書けるのは、公開されている費用の情報だけです。
交換・修理に30万円以上かかったという実例が、
複数の整備工場や輸入車専門店のブログで紹介されています
(出典:Dr.輸入車ドットコム/ドッコオートテクニカ/松原オート)。
大事なのは、壊れやすいかどうかより、その費用感を知ったうえで選ぶかどうかだと思います。
知って選んだなら、いざというときも想定内です。
知らずに選ぶと、そこで初めて困ることになります。
Q3. 中古車サイトで「5AT」「6AT」と書いてあるのに、ATじゃないんですか?
シフト欄の表記だけでは、中の機構までは分かりません。
「AT」は「自動で変速する」という意味の広いくくりで、
その中にトルコンATもAMTもDCTも入っています。
確実なのは、車種名に加えて
「デュアロジック」
「ASG」
「ツイナミック」
「DCT」
といった機構の名前で調べることです。
そこまで確認して初めて、変速時に駆動力が途切れるタイプかどうかが分かります。
なお、これは表記した人の落ち度ではなく、業界の表記慣習です。
だからこそ、買う側が知っておく必要があります。
Q4. 高速道路が中心なら、500やup!でも問題ないですか?
僕は高速メインで乗って、それでも「厄介」だと感じました。
ただし、変速回数の少ない高速道路は、AMTにとって有利な条件です。
つまり、僕が感じたのは弱点が最も出にくい状態での話だということになります。
渋滞や低速のストップ&ゴーが多い使い方なら、同じクセがより強く出ると考えられます。
ただしこれは僕の一次体験ではなく、機構からの推測です。断定はできません。
Q5. 3車種の実燃費はどれくらいでしたか?
smartについてだけ書きます。記憶に基づく概算で、15km/L前後でした。
参考として、webCGが満タン法で計測したsmart forfour passionの実測値は14.0km/Lと報告されています(出典:webCG)。
フィアット500とup!については、僕の記憶が曖昧なので書きません。
思い出せそうな気もするのですが、思い出せそうな気がする数字を書くことが、
いちばん危ういと思っています。曖昧な数字を出すほうが不誠実だと考えています。











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